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株式会社 森上教育研究所 公立中高一貫校 特任研究員 若泉敏

1995年、その年、あなたは何歳だったでしょうか?

1月に阪神・淡路大震災が発生したその年に1歳か2歳であった乳幼児の一部が、10年後の2005年2月3日、東京都で初めて行われた都立中学の「適性検査」問題に挑み、一般枠14.26倍の高倍率をくぐり抜けた160人が6ヶ年一貫の教育をほぼ無償で受けられる入学資格を得たのでした。

 

いま小学生の子どもを持つ親が、小・中学生の頃にはなかった学校制度、それが公立学校に認められた中高一貫校です。その頃は中学校から高校に進学する際に高校受験するのは当たり前。その洗礼を受けることなく公立高校に進学できる制度が1999年に誕生したのです。東京都では2005年4月、都立白鴎高校に附属中学を併設し開校しました。

 

2013年4月現在全国には186の公立中高一貫教育校が設立されていますが、そのうち入学者選抜が行われる中等教育学校と併設型の一貫校は合わせて103校あります。

 

今年、中学入学1期生が初めて大学受験をしたのは、さいたま市立浦和高校や千葉市立稲毛高校など全国で13校。これらを含めて、既卒者を出している公立中高一貫校はすでに約70校あります。市立浦和は東大に1人、市立稲毛は京都大学に2人、兵庫県立大学附属高校は開設以来初めて東京大に2人、京都大に1人。三つの学校とも難関大学(※)は全員一貫生の現役合格です。すでに卒業生を出している一貫校も年々実績を伸ばしており、例えば初年度東大合格者1人だった愛媛県立松山西中等教育学校は、11期生が東大2人、京大3人の現役進学を果たしました。設立後10年を経てもなお、進学実績の伸びを続けているのです。またその他の国公立大学および著名私立大学にも、合格者数を増加させていて、トップ層だけでなく学年全体の学力伸長を図っているといえます。

 

普通の公立高校との違いは、圧倒的な現役合格率の高さです。難関国立大合格者に占める現役生の比率が、一般の公立進学高校で50%強であるのに対して公立一貫校のそれは80%以上であり、合格者全員が現役である学校も少なくありません。

この結果は何を物語っているのでしょうか。

成果を生む理由の一つは6ヶ年一貫教育の有利さです。高校受験を控えた受験勉強に半年間を費やす必要のない「ゆとり」ある学校生活の中で、多様な教育環境を整備して知識重視に偏ることのないバランスのとれた人間力の育成を図りつつ、教育課程の柔軟な編成を実施して効率の良い学習指導が受けられることなど、数々のメリットを享受できます。

 

もう一つは入学者選抜の際に、「適性検査」を採用している点です。適性検査を経て合格した生徒たちの中に、入試得点だけを意識した受験勉強に精を出す生活ではなく、意欲と関心を幅広く持って生きる力を育む生活をおくり、入学後あと伸びするような生徒が多様に存在することが予想されるのです。

それでは、公立中高一貫校で実施される「適性検査」とはいったい何なのでしょうか。

1998年に学校教育法が改正された際に「受験競争の低年齢化を招くことのないよう、公立学校の場合には、学力試験は行わない」とされました。そこで入学者選抜方法を決定する各自治体の教育委員会は、「学力試験」に代わる具体的な選抜方法として、「学校の特色に応じて、生徒の適性等を判断する適切な方法」=「適性検査」を考案したのです。

では、「学力試験」ではない「適性検査」とはどのように考えたらよいのでしょうか。

学力試験は、中学・高校の定期試験や高校入試、大学センター試験等でみられる問題です。教科学習をした後、その教科特有の知識や理解、技能がどこまで定着したかを確かめる試験です。試行錯誤してじっくり考える生徒よりも、記憶力の良い生徒が勝ちます。要領よく暗記して素早く吐き出せる生徒が「学力のある」生徒なのです。もともと「記憶力に優れた資質」を持っていればよいのですが、皆がそうではありません。これを高めるには「要領の良い」覚え方を効果的に【塾などで】教えてもらい、繰り返しのトレーニングを積んで身につけるのが王道です。さらに他人よりもいち早く学習して【より低い学年のうちに】慣れてしまった方が定着は確かなものになります。このように「学力試験」は「要領と前倒しの獲得」によって、より効率よくクリアできる一面を持っているわけです。「公立中高一貫校」が12歳児に対して「学力試験」を行うと、先取りの競争が始まり全国の小学校に及ぼす影響は計り知れないので、学力試験はしてはいけないとなったのです。

 

もう一つは、「私立学校」の大きな抵抗があったというべきでしょう。私立学校が築き上げてきた「中高一貫のシステム」を、授業料を徴収しない公立が実施したら、私立学校は存亡の危機に陥るとの懸念から「公立復権」を阻止するために、私立中学入試で行う「学力試験」を「公立一貫校」では行わせないと動いたのではないかと思われます。私立学校としては至極当然の動きではありますが。

 

適性検査は、このような背景をもって誕生してきたわけです。現に文部科学省は、「公立一貫校は適性検査をする」とは、一言も言っていません。

 

さて、それでは最後に、筆者がこれまで全国の適性検査問題を詳細に分析検証してきた立場から、適性検査問題とはどのような問題なのか、見解を述べることにします。

 

適性検査問題は、日常の社会生活・学校生活に存在する話題や資料を示して、その中から受検者に課題を見つけさせ(課題を分析、考察して発見する力)、課題を解決するための方策を考えさせ(思考力、判断力、構想力、発想力など)、自分なりの課題解決を表現させる(記述・表現力)問題となっています。多くの適性検査問題は、登場人物たちの会話文によって物語風に進行し、随所にグラフ、表、写真、絵などを資料として置き、その資料と文書を考察の判断材料として用い、【問い】について記述解答する形式をとっています。教科を横断した総合的な問題が出されることが多く、記述式の解答を求める場合には途中の部分点も点数にあげられます。

 

より優れた良い適性検査問題は、それらの文章や資料の中に考察判断の根拠となる事柄や条件が事実として適切に散りばめられていて、受検者がそれらの条件等を見落とすことなく拾い上げ、課題解決により適合する資料や事実を選択判断し、自分の既習の学習内容や経験を総動員して適切な解答が導き出せるように仕組まれた問題となっています。

 

問いを読み、獲得してきた知識そのものを答える問題や、理由や根拠を説明するときに学習して覚えこんだ知識のみで解答できる出題は、適性検査問題とはいえません。いかに適性検査と銘打ち、適性検査の体裁を取り繕ったとしても、学力試験なのです。

 

紙幅が尽きてしまいました。一口に公立中高一貫校の適性検査といっても、出題内容や問題のレベルは地域や学校によって大きく異なっています。その詳細については、拙著『新版 公立中高一貫校合格への最短ルール「適性検査で問われるこれからの学力」』(WAVE出版2013年)と『中学受験 全国公立中高一貫校のすべて』(ダイヤモンド社2009年)をご覧ください。

 

(※)東京都教委が定める難関大学:東京大、京都大、東京工業大、一橋大、国公立大学医学部医学科を本稿でも難関大学としています。